#8 働き方改革は学校現場に届いていない

現在、埼玉県教育委員会に対し長時間労働の是正を訴えるため超過勤務訴訟を起こしている、小学校教員・田中まさおです。

今日は、「学校現場に届いていない働き方改革の現状」について書きます。

勤務開始前の登校指導について発言したが・・・

裁判を起こすと決めたとき、勤務校でも時間外労働に関することは言った方がいいと思いました。そこで、勤務校で例年行われていた勤務時間前の登校指導について、職員会議で発言しました。2018(平成30)年度最初の職員会議です。

「勤務開始前の登校指導をやめてほしい」と提案しました。

本来は午前8時半からが正規の勤務時間なのに、7時半に学校へ来て、持ち場の交差点まで10分かけて歩いて旗を振る、これは超勤4項目には該当しない無賃の時間外勤務ではないかと。

ちょうどその頃、文科省から働き方改革の緊急対策が出され、登校指導は『学校以外が担うべき業務』と明示されたときでした。

(出典:文科省「学校における働き方改革に関する緊急対策」

しかし、校長からは「今まで通りでお願いします」と簡単にあしらわれました。学校は前年踏襲が原則で、保護者やPTAとの関係等もあるのか、校長としてはこれまでやってきたことを変えるわけにはいかないようでした。

そこで私はさらに、「登校指導のある日は1時間早く帰らせてほしい」と譲歩して提案もしましたが、それも却下されました。

また、登校指導以外の業務についても、学校現場では(少なくとも私の勤務校では)緊急対策を受けての業務の見直しは行われませんでした。

文科省やマスコミの報道、SNSなどでは盛んに議論され始めた教員の働き方改革ですが、学校現場にはまだまだ届いていないというのが私の個人的な感想です。

#7 教員の超勤問題を労基法違反で訴える

現在、埼玉県教育委員会に対し長時間労働の是正を訴えるため超過勤務訴訟を起こしている、小学校教員・田中まさおです。

今日は、「教員の超勤問題を労基法違反で訴える」という私の考えについて書きます。

教職の特殊性が誤って解釈されている

同じ仕事にもかかわらず、勤務時間内であれば「正規の業務」、勤務時間外であれば「自主的な業務」とされてしまうのが、今日の学校教員の置かれる現状です。

これまで学校現場では、これが教職の「特殊性」と誤って解釈されてきました。こうした解釈は本来の「特殊性」ではありません。

本来の教職の「特殊性」とは、教員が授業をより良くするためにどのような工夫をするかといった「仕事のやり方」について認められるものです。

「特殊性」があるから「自主的な業務」になる、という解釈は正当ではないということです。

同じ仕事をしているのに勤務時間外となった途端に「自主的な業務」とされてしまうのは、明らかにおかしな話です。

私はこのような現状を打破するために、裁判で、「勤務時間内に終わらない仕事を命じていることは、時間外勤務を命じていることと同じ」と主張しています。

教職調整額が支給されているから問題ない?

今回、裁判では埼玉県は勤務時間外・超勤4項目以外の業務について、次のように主張しています。

「仮に教員の勤務が正規の勤務時間外に及んだとしても『教職調整額』が支給されている。よって、無賃労働ではない」

「教員の職務及び勤務態様の特殊性を正規の勤務時間の内外を問わず包括的に評価した結果として『教職調整額』を支給している」

これまでは、教員の超過勤務はあくまで「自主的」だから残業代は支給しない、時間外勤務は命じていない、という理論が全面に立っていましたが、今回私の裁判では、「時間外勤務も存在するが、教職調整額を支給しているから問題ない」という論理です。

県は、教職調整額は超勤4項目に対してだけでなく、超勤4項目以外の日常的な業務も含め、勤務時間の内外を包括的に評価して支給するものとしているのです。

労働基準法違反で訴える

給特法の第一条は、教員の仕事には特殊性があると言っています。

ところが現在の学校現場は給特法に罰則がないことを良いことにその趣旨(教職の特殊性)を曲解して、校長が現実には業務を命令しているに等しい実態があります。それが問題です。

そもそも、労働基準法は1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超えて働かせることを原則として禁止しています(労働基準法32条)。法定労働時間を超えて働かせる場合には、それが例外的に許されるための根拠が必要です。

給特法は、超勤4項目の業務についてのみ、例外的に教員を勤務時間外に働かせることを認めています。逆に言えば、超勤4項目以外の日常的な業務について、教員を勤務時間外に働かせることは、給特法においても認められていません。

文科省は校長の権限を強くして、教員に組織の一員として行動することを求めています。それが勤務時間内に収まるなら構いません。しかし、それが勤務時間外にまで及ぶなら、労働基準法違反であり、本来は労働基準法に基づき超勤4項目以外の日常的な業務については36協定を結び割増賃金を支払うべきではないのかと、裁判ではこのように主張しています。

ですから、現状の給特法上でも残業代が支払われる余地がある、私はそう考えています。

その余地は何か。

それは、職員会議を通じて業務が命じられているかどうか、です。

職員会議は校長の諮問機関とされており、職員会議を通じて決められた業務を教員が拒否する権限はありません。

たとえ明確な命令がなくても、学校の方針に基づく業務を勤務時間外に行った場合に対しては、労働基準法に基づいて残業代を出すべきなのです。

未来の話

そもそも残業代を出さない方法で解決しようとするから、様々な矛盾が出てきます。働いた分の賃金を払わない方法を探ることに無理があるのです。

まず、残業代を支給して仕事を明確にすること。そのうえで残業代を限りなくゼロにすること。残業代支給に伴って、より仕事が精選されるようになること。

これが、これからの学校現場のあるべき姿なのではないでしょうか。

最後に、今回の私の考えに賛同いただける方は、SNS等で

# 教員の超勤問題を労基法違反で訴える

のハッシュタグで拡げていただけると、とても有り難いと思っています。

宜しくお願いいたします。

第3回裁判、本日はありがとうございました

本日、さいたま地裁にて第3回の裁判が行われました。

裁判所までお越しいただいた皆様、応援コメントをくださった皆様、裁判に注目していただいている皆様、本日はありがとうございました。

傍聴席には、たくさんの方々に足を運んでいただき、大変心強く感じました。

報告会には、埼玉大学の高橋哲先生もお越しくださり、労働基準法と超過勤務問題の関係について等の質問に答えていただきました。

また、学生さんや現役教員など若い方々からの意見もたくさん頂戴し、有意義な報告会となりました。

なお、本日の第3回の私の陳述書と県側の答弁書は、裁判の資料のページにPDFでアップしましたので、ダウンロードして全文をお読みいただくことができます。

次回、第4回裁判は、7月12日(金)10時30分〜に決定しました。

#6 教員が自発的に始めた「想い」が、指示を出される「無賃残業」に変わった

現在、埼玉県教育委員会に対し長時間労働の是正を訴えるため無賃残業訴訟を起こしている、小学校教員・田中まさおです。

今日は、「教員が自発的に始めた『想い』が、指示を出される『無賃残業』に変わった」について書きます。

最初は教員の児童への”想い”だったはずなのだが・・・

一例として、図工の作品へのコメント入れについて取りあげます。

私の勤務校では、校長から児童の作品に対して必ずコメントを入れて掲示するよう指示されています。

このような仕事、最初は、児童が描いた絵に対しての自発的な教員の“想い”で始まったものだと考えています。

教員の自発的な想いで始まったことなので、校長が校内を見回すと、当然コメントが入ったクラスとそうでないクラスがあるわけです。

そして、来校者がいた時にコメントが入っているのとないのとでは、どちらが良いかと考えるようになり始めました。そうなると、言うまでもなく、コメントを入れたほうが良いわけです。

校長から「コメントを入れて掲示するように」と“指示”されるようになりました。職員会議が校長の諮問機関になり、校長の権限が強化され始めた頃の話です。

さらにそのうち、「掲示物には全てコメントをと入れるように」となりました。
(もちろん、このあたりの細かい事情は地域や学校によって異なるところはあると思いますが、仕事が増えた経緯という観点でみれば、同じようなことが日本全国の学校で起きているのではないでしょうか。)

指示されて時間外にやらざるを得ないにもかかわらず、残業代は出ない状況

1クラス児童が40人いたら、1人分2分で終わったとしても、計80分かかります。

この仕事をいつやるのかというと、勤務時間内にその時間は確保されないので、勤務時間外です。

昔は教員が自発的にやっていたのだから、そのような仕事は残業の対象にならなくても問題はなかったのだと思います。給特法というのは、そのような趣旨のもと立法された法律です。「教員が自発的にやっているのだから残業代は出せない」という理屈です。この理屈には正当性があると私は思っています。

しかしそれが今、「教員に指示を出しておいて(自由にさせないでおいて)、残業代も出さない」という状況です。

これはおかしいのではないか。それが私の考えです。

指示をされて、かつ、勤務時間外にやらざるを得ない状況にあるのに、自発的であった頃と同じように残業代を出さない、というのはもう通用しないと思っています。

仕事の指示を出し、それが勤務時間内に終わらないものであれば、残業を支給すべきで、そうしなければ長時間労働に歯止めがかかりません。

#5 校長による勤務終了の「明確な意思表示」について

現在、埼玉県教育委員会に対し長時間労働の是正を訴えるため無賃残業訴訟を起こしている、小学校教員・田中まさおです。

今日は第2回の裁判でも述べた、「校長による勤務終了の意思表示について」について書きます。

校長は、”明確な意思表示”を行うべきである

教育委員会は、教員の時間外労働について、「校長は教員に対して時間外勤務を命じていない」と主張します。

しかし、そうであれば、「校長は勤務時間終了とともに勤務を終了するよう、教員に対して”明確な意思表示”を行うべきである」というのが私の考えです。

ところが、実際には校長は、教員に対して勤務終了の意思表示は行っておらず、その一方で、勤務を終了する教員に対してその意思表示をさせています。

私の職場では、実際に教員が勤務を終了して退勤する際には、管理職のところに行って、退勤する旨を申告するように指示されていました。

これは、教員から退勤の意思表示がなされた時刻まで勤務を続けることを、校長が容認している、すなわち時間外勤務を命じているということになるのではないでしょうか。

教員が勤務時間外まで勤務を続けることが常態化している状況において、特に若い教員が、17時に校長の席まで行って「帰ります」と申告するのは、非常に勇気がいることであり、決められた時間に勤務を終了することは、現実的には非常に困難です。

実際、私は17時に勤務を終了する若い教員を見たことがないし、私自身においても定時に勤務を終了し、校長に退勤を申し出ることは、長年の間できませんでした。

本来は、定時に勤務を終了するのが原則であり、勤務を続けるのが特別なのであるから、校長は、「時間外勤務を命じていない」ということをまずは明確に示した上で、定時以降に勤務を続けることを特に希望する教員が、校長に断って勤務を続けるようにするべきではないでしょうか。

民間労働者の場合、労働者が就業時刻以降も就労しており、上司がそれを知って放置しているような場合、使用者の指揮命令下の労働と評価されるのが通常であり、教員についてのみ、異なる解釈を取るべき根拠はないと私は考えます。

裁判では、このような内容を訴えています。

文科省も「黙示の超過勤務命令」を認めている

先日、文科省YouTubeチャンネルから、第1回 「~公立学校の校長先生のための~やさしい!勤務時間管理講座」(「公立学校の教師の勤務時間管理の基本」)という動画が発表されました。

このなかでは、

「命じるというのは明確に『〇〇しなさい』という発言がある場合はもちろんですが、明確な命令や言葉が文書で発せられていない場合でも実質的に使用者の指揮命令下に置かれている状況にあれば、それは『黙示の超過勤務命令』があったとされることに注意が必要です」

と述べられています。

全国の学校現場で校長による勤務終了の“明確な意思表示”が行われ、適正な労務管理が進むことを望みます。

 

お読みいただきありがとうございます。

なお、裁判の意見陳述書については、裁判資料のページからPDFをダウンロードしていただければ全文お読みいただけます。

#4 同じテストの採点なのに時刻によって業務になったり認められなかったりする現状について

現在、埼玉県教育委員会に対し長時間労働の是正を訴えるため無賃残業訴訟を起こしている、小学校教員・田中まさおです。

今日は第2回の裁判でも述べた、「同じテストの採点なのに時刻によって業務になったり認められなかったりする現状」について書きます。

「勤務時間内」にやっていた場合には業務になり、「勤務時間外」にやった場合には業務にならない現状

公立学校の教員には原則、残業代が出ません。そのため、職場の管理者である学校長には残業が出ないよう労務管理をしなくてならない、というのが法律的な建前です。

しかし、私たち教員が置かれている現状は、7時間45分の勤務時間で処理可能な業務を「大幅に」上回る業務を課せられています。

このような矛盾がまかり通っているために現場では、次のようなおかしな事態に陥っています。

それは、ある仕事を「勤務時間内」にやっていた場合には業務になり、「勤務時間外」にやっていた場合には業務ではない、という事態です。

その一例としてテスト採点を挙げます。次の表をご覧ください。

17:00の勤務終了時間を境に、それまでは業務として認められた同じテストの採点が、急に業務として認められなくなるのです。

このように現場では行う時刻によって業務になったり、業務と認められなかったりということが毎日起こっています。

これは、「授業の準備」「指導案作り」「週案作成」「成績処理」「通知表作成」「指導要録作成」など、ほかの様々な教員の業務についても同様のことがいえます。

社会通念上、仕事として認められている業務に従事しているのであれば、それがどの時間帯に行われたものであっても、業務命令に基づく仕事として評価されるべきです。

私が、「勤務時間内に終わらない仕事を命じることは、時間外勤務を命じているのと同じなのである」と主張する所以です。

 

お読みいただきありがとうございます。

なお、意見陳述書については、裁判資料のページからPDFをダウンロードしていただければ全文お読みいただけます。

#3 裁判が始まって

現在、埼玉県教育委員会に対し長時間労働の是正を訴えるため無賃残業訴訟を起こしている、小学校教員・田中まさおです。

前回は、訴訟を起こすまでの経緯を書きました。今日は、「裁判が始まってからの出来事」について書きます。

12/14 第1回裁判での出来事

2018年12月14日(金)に第1回裁判が行われました。私は原告です。

裁判所では、被告側に対して何か答えたり、被告側に質問したり双方のやり取りがあるのかと思っていたのですが、自分の主張を訴えるだけでした。何しろ裁判など初めての経験で知りません。

裁判というものは原告の主張と被告の主張のやりとりと思っていたのですが、裁判所では基本的にはお互いの書類のやりとりだそうです。私はその事に驚きました。

この日は第1回公判でしたので、口頭で私が約10分程度話をして、若生弁護士が10分程度話をしました(意見陳述といいます)。傍聴席に人が来ることを予想して、プロジェクターを用意してもらい、パワーポイントを使いながら説明しました。

被告からは事前に答弁書が届いており、当日の主張は特にありませんでした。裁判所を出ると、そこにはマスコミ関係の方が待っており、囲み取材を受けました。

その時取材を受けた記事がこちらです。

「私の仕事は、残業代を出すことに値しないのか」 公立小教員の訴え〈全文〉【弁護士ドットニュース2018年12月14日】

埼玉教員残業代訴訟 「義務ない」、県は争う姿勢【産経新聞2018年12月15日】

残業代払ってほしいと陳述 埼玉・教諭の口頭弁論開始【教育新聞2018年12月17日】

小学校の先生が埼玉県に「残業代」請求、わざわざ裁判を起こした理由【ダイヤモンドオンライン2018年12月27日】

自分自身に力がないとマスコミ関係者をはじめ、応援をして頂いている方々が味方になってくない、裁判を通して相手を批判することよりも自分自身が豊かになることが大切だと思いました。私は亥年です。幸い、私を応援してくれる方々のおかげで、猪突猛進にならずに済んでいます。

2/22 第2回裁判での出来事

2019年2月22日(金)に第2回裁判が行われました。

私は第2回公判でも口頭で意見陳述を行いたいとお願いし、5分の時間を頂きました。若生弁護士も5分の主張をしました。被告側の主張はありませんでした。10分程度で終わりました。

2回目の裁判ですので、被告の答弁書に対する反論を考えたのですが、「求釈明申立」と言って、被告に質問することによって裁判を進める形を取ってもらいました。

私は答弁書に対する反論を考えていた所、一つ一つこちらから答弁するのもよいのですが、被告側はその事についてどう思っているのかを確かめることが先だと気がつきました。そこで若生弁護士に相談した所、「求釈明申立」という方法を教えていただいたのです。

裁判の後、場所を確保して、傍聴席に来て頂いた方々に対する報告会を行いました。マスコミの方もきました。たくさんの方が来てくれました。なかでも学生の方々が多く参加してくれたことが印象に残っています。一人ひとりお名前は出せませんが、いつも応援して頂いている方々には大変感謝しております。

こちらのそのときの記事です。

埼玉教員残業代未払い訴訟 県側に「自主的勤務」の根拠、説明求める【産経新聞2019年2月23日】

次回裁判は、5/17(金)

次は、2019年5月17日(金)10時30分より、さいたま地方裁判所で第3回目の裁判が行われます。

第2回のとき同様、裁判の後に報告会を行います。裁判に興味のあるお方はぜひお越し下さい。

誰でも傍聴及び報告会に参加できます。思わぬ人に出会えるかもしれませんよ。マスコミ関係者もぜひお越し下さい。

なお、第1回第2回裁判資料については、裁判資料のページからPDFをダウンロードしていただければ全文お読みいただけます。

#2 訴訟を起こすまで

現在、埼玉県教育委員会に対し長時間労働の是正を訴えるため無賃残業訴訟を起こしている、小学校教員・田中まさおです。

今日は、「訴訟を起こすまでの経緯」について書きます。

訴訟を起こすまで

訴訟を起こすことを考えている学校教員はあまりいないと思います。私も同じでした。何しろ訴訟の起こし方などわかりません。

不合理なことで納得できない場合には、仲間に訴える、組合に訴える、管理職に訴える、教育委員会に訴える、人事委員会に訴える、裁判に訴えるなど、色々な方法が考えられます。

しかし今回、本位ではないものの、裁判という手段を選ばざるを得ませんでした。全国の学校を変えていくためです。

労働基準監督署に相談するも・・・

裁判に至る経緯を少しお話しします。

過去10年間を振り返ってみます。学校を異動すると、そこでは自分の立場はどうしても下がります。いきなり自分の思いは主張できません。学校の様子に合わせるしかありません。勤務時間前の登校指導を強要されても従うしかありません。PTA活動で休日出勤も従うしかありません。それが約10年前の出来事です。

私は、はじめ、労働基準監督署に電話で相談しました。平日の休みはないので、土曜参観日の振り替えがチャンスでした。結果は、「あなたは公務員なので人事委員会に相談して下さい」ということでした。労働基準監督署に電話をするだけでも相当な勇気が必要でした。その時は、人事委員会は教育委員会にあると聞き、同じ仲間同士に言っても意味がないだろうと思っていました。

3年前、再び異動がありました。この学校では、勤務時間前の登校指導が月に1回、休憩時間には下校指導までありました。休憩時間に特別活動が入っていても当たり前、倫理確立委員会という会議も開催されていました。また、ほとんどの教員が登校指導等のために勤務開始時間1時間前に出勤していました。

年々、時間外労働が増えていきました。

記録をとるように

異動を経験して、教員の超過勤務問題は一つの学校での出来事ではないこと、年々状況が酷くなっていくなどが分かり、自分の勤務校だけを良くするだけでは意味がない、日本全国の学校を変えられないか、と思うようになりました。

自分達の世代で無賃労働は終わりにさせよう。

この頃からノートにメモを取るようにしました。

まず、出勤、退勤時刻を毎日記入しました。そして、簡単な残業内容も記入しました。さらに、不合理だと思う時間外労働に対して感じることをメモするようにしました。

弁護士探し

裁判に訴えるために労働問題を専門とするインターネットで調べて、弁護士を探しました。「依頼者の皆様にとって身近な存在として、あらゆる問題に真摯に取り組みます」というコメントを見て、若生直樹弁護士に決めました。

メールでの連絡を通して、2018年3月に初めて若生弁護士にお会いしました。

私からは、訴訟を起こしたい趣旨・内容をお話しして、若生弁護士からは、訴訟の方法・費用・準備することなど詳しく教えていただきました。そのやりとりの中で、私はその日に契約をする決心をしました。

訴状の作成・提出

その後、自分が考えてきたことを文章にして持って行きました。

そして、若生弁護士とメールなどで裁判で訴える内容や必要な書類について打ち合わせを重ね、裁判所に最初に提出する「訴状」の形にまとめました。

9月25日、作成した訴状をさいたま地方裁判所に提出しに行きました。若生弁護士と裁判所入り口で待ち合わせをして、一緒に中に入りました。書類を出して、終わりです。

その後は、裁判所の目の前にある埼玉県庁記者室で記者会見をしました。新聞各社マスコミから質問を受けました。自分の考えをしっかりとまとめて、主張がぶれないように気をつけました。

そのとき取材を受けた記事です。

時間外勤務の手当支払い求め小学校教諭が県を提訴 埼玉【産経新聞2018年9月25日】

教員「働かせ放題」許せず提訴 定年間際「次世代に引き継げない」と覚悟の裁判【弁護士ドットニュース2018年10月28日】

 

お読みいただきありがとうございました。次回は裁判が始まってからの出来事について書く予定です。

#1 「職員会議」が変わり、教員の自主性が尊重されなくなった

現在、埼玉県教育委員会に対し長時間労働の是正を訴えるため無賃残業訴訟を起こしている、小学校教員・田中まさおです。

これから、裁判の話を中心に38年間の小学校教員の経験についても書いていきたいと思っています。

今日は第1回の裁判でも述べた、「教員の自主性」に対する変化について書きます。

教員の自主性が尊重されていた時代

1981年(昭和56年)4月。私が教師になった当時は、教師の自主的な活動が主であった時代でした。

初めて先生と呼ばれた日のことです。始業式で簡単な挨拶、担任発表の後に教室に向かうのですが、何を指示されることもなく、自分で教室に向かい、子供たちの前で自分の思いを必死に話していたことを覚えています。先輩の先生の様子を見ながら自分で考えて仕事をしていました。

楽しかった毎日毎日があっという間に過ぎていきました。学校長に指示を受けることもほとんどありませんでした。

勤務の開始は8時30分。多くの先生方の出勤時刻は8時15分を過ぎていました。17時が勤務終了の時間です。子育て中の先生方が大勢いて、勤務時間の終了とともに職員室から半数ほどの先生たちがいなくなりました。

教員の自主性が尊重されなくなった

そのような状況が一変したのが、2000年(平成12年)です。学校教育法の改正で施行規則48条で、職員会議の位置付けが変わったのです。

改正学校教育法施行規則48条

  1. 小学校には、設置者の定めるところにより、校長の職務の円滑な執行に資するため、職員会議を置くことができる。
  2. 職員会議は、校長が主宰する。

この改正により、それまで法的に位置づけられていなかった職員会議が法令上明確に位置づけられました。それまで職員同士で話し合いや多数決で決定していた職員会議は、この改正により「校長の諮問機関」つまり明確に校長に決定権限が与えられるように変わったのです。

その直後、2001年(平成13年)4月、新しい学校に着任すると大きな変化を感じました。職員会議は話し合いの場ではなくなりました。また、人事評価制度も導入されました。この頃から時間外勤務が増えるようになりました。

2008年(平成20年)に異動した学校では、登校指導のため、朝早く出勤しなければなりませんでした。もちろん時間調整もありません。学校長から仕事を指示されることが多くなり、時間外勤務が当たり前のようになってきました。

このように、職員会議が校長の諮問機関になったことで教員の自主性が尊重されなくなり、それにしたがい時間外勤務がとめどなく膨らんでいきました。

若い方々にも、このような経緯を知っていただきたいと思い、筆を執りました。